【ラーメン屋経営で解説】「損益ってなに？〜会社の中身がわかる5つの利益と増益戦略〜」

上司から「今期の損益はどうだ？」と聞かれたとき、あなたはどの数字を答えればいいか、迷っていませんか？

私も管理職になりたての頃は利益の種類が多くどの利益が何を指すのか全く理解できていませんでした。

管理職初心者が陥るのが、「利益＝儲け＝当期純利益」と思い込んでしまう間違いです。実は、会社の「儲け」には種類があり、どの利益に注目するかで、あなたの部署が次に打つべき手が全く変わってきます。

この記事では、「損益計算書（P/L）」の基本的な構造を、ラーメン屋の経営を例にわかりやすく解説します。

5つの利益それぞれの意味を理解し、「損益」の全体像を掴むことで、あなたは数字に強い戦略的なリーダーへと進化できます。

1, 5つの利益を理解

会社の経営状態を把握するには、「損益計算書（P/L）」に現れる5種類の利益を、その計算プロセスと合わせて理解することが不可欠です。

この5つの利益は、売上から費用を段階的に引いていく中で計算され、「本業の力」「通常の活動の成果」「最終的な成績」など、会社の異なる「儲け」を示しています。そして、「損益」とは、この利益と損失の全体の結果を指す言葉です。

単に「儲かった（黒字）」という結果だけを見るのではなく、どの利益が低迷しているかを知ることで、「値上げすべきか」「人件費を削減すべきか」「借金を減らすべきか」といった、あなたの部署が改善すべき具体的な課題が見つかるからです。

ここで、「地域に愛されるラーメン屋」の経営を例に、5つの利益と「損益」の関係を見てみましょう。

中級管理職になるためのアドバイス：

会社が「損益が悪い」というとき、それは⑤ 当期純利益がマイナス（損失＝赤字）である状態を指すことが多いです。しかし、② 営業利益がマイナスであれば、本業そのものが赤字ということになり、より深刻な問題だと判断できます。

2, 利益の意味・役割と増益戦略

①売上総利益(粗利)と増益戦略

計算方法：売上総利益(粗利) = 1杯の価格 – ラーメン1杯の原価

意味・役割：商品やサービスの競争力の把握。

増益戦略：ラーメン1杯の価格を上げる。又はラーメンの品質を下げず原価を下げる。

利益は販売してはじめて生まれるものです。逆に言えば、販売しないと利益も何も生まれません。

利益を上げようとラーメンの価格を上げ過ぎたり、ラーメンの質が下がるぐらい原価を下げるとお客は離れます。

ラーメンの品質(味や映え度)と価格のバランスを考え、この味ならこの値段でも納得できるという売価設定が最も重要です。

ラーメンの品質を上げると評判や口コミが上がり「客が客を呼ぶ」環境が整います。

一度きりのお客に対してであれば「品質=価格」でいいと思いますが、リピーターを増やす戦略であれば「品質≧価格」が効果的です。

②営業利益と増益戦略

計算方法：営業利益 = 売上総利益(粗利) – 販売管理費(固定費 + 変動費)

意味・役割：営業利益は本業の実力。

増益戦略：販売管理費(固定費と変動費)の削減。

【重要】管理職初心者の方は、まずは「営業利益」に注視しましょう。そして、他の利益がなぜ増減したのかを追うことで、あなたの視野は経営者レベルに広がります。

固定費と変動費とは？

これらは、会社の売上の増減に応じて費用がどう変化するかという視点で、費用を二つに分けたものです。経営分析の基本であり、利益を最大化する戦略を立てる上で非常に重要です。

1. 固定費

固定費とは、売上が増えようが減ろうが、基本的に金額が変わらない費用のことです。売上がゼロでも、毎月必ず発生します。

例：ラーメン屋の家賃

• 売上が100万円の月も、家賃は10万円です。
• 売上がゼロの月でも、家賃は10万円です。

【主な固定費の例】

• 家賃・地代
• 正社員の給料（人件費）
• 減価償却費（設備や建物の購入費用を分割して計上する費用）
• 保険料

2. 変動費

変動費とは、売上の増減にほぼ比例して金額が変わる費用のことです。売上が増えれば費用も増え、売上が減れば費用も減ります。

例：ラーメン屋の材料費

• ラーメンを100杯売る月は、麺・スープ・具材の原価がたくさんかかります。
• ラーメンを10杯しか売らない月は、麺・スープ・具材の原価は少ししかかかりません。

【主な変動費の例】

• 売上原価（商品の仕入れ費用や、製造のための原材料費）
• 外注費（業務量に応じて変動する外部への依頼費用）
• 販売手数料
• パート・アルバイトの時給（稼働時間に応じて増減するため）

損益分岐点とは？

この分類を知る最大のメリットは、「損益分岐点（そんえきぶんきてん）」を把握し、利益を出すための具体的な戦略を立てられるようになることです。

販売管理費（固定費や変動費）のコントロールを行い、営業利益を最大化することが、あなたの最大のミッションです。

③経常利益と増益戦略

計算方法：経常利益 = 営業利益 + 営業外収入(預金利息の受取等) – 営業外費用(銀行への借入金利息等)

意味・役割：会社の総合力を示す指標。

増益戦略：営業外損益の改善

営業外損益とは、金融機関との取引など、本業とは直接関係ない収益と費用です。経営者はここを改善することで、経常利益を確実に底上げできます。

(1) 営業外費用の削減（コストカット）

この対策は、経常利益を上げる上で即効性がありますが、一般管理職ではここに着手することは厳しいです。なので、営業利益を上げることが重要になります。

• 支払利息の削減: 借入金利息が高い場合は、金利の低い金融機関への借り換え（リファイナンス）を検討する。有利子負債（借金）の返済を計画的に進める。
• 為替差損のヘッジ: 海外取引がある場合、為替変動による損失（為替差損）を減らすためのリスクヘッジ（保険のような取引）を検討する。

(2) 営業外収益の増加

• 遊休資金の活用: 銀行に寝かせているだけの資金がある場合、安全性を考慮しつつ、利息や配当が得られる金融商品（定期預金や社債など）での運用を検討する。
• 受取手数料の最適化: 受け取る利息や配当、手数料などの金額を最大化するための金融商品の見直し。

④税引前当期純利益と増益戦略

計算方法：税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益(特別に古い厨房機器を売った益等) – 特別損失(火事による損失等)

意味・役割：すべての活動の結果（臨時的な要素を含む最終結果）

増益戦略：特別損益をコントロール(資産の有効活用)

特別利益は、本業とは関係のない臨時の収益です。税引前利益を一時的に大きく押し上げることができます。

• 遊休固定資産の売却不動産売却益：使用していない土地、建物、古い工場などの遊休資産を売却し、売却益を計上する。
• 有価証券の売却投資有価証券売却益：市場価値が購入時より上がっている株式や債券などを売却し、売却益を計上する。

⑤当期純利益と増益戦略

計算方法：当期純利益 = 税引前当期純利益 – 法人税などの税金

意味・役割：最終的に会社に残る純粋な儲け

増益戦略：支払う法人税等の負担を最適化する（節税戦略) / 法人税 繰り延べ戦略

「法人税等」（法人税、住民税、事業税）は会社の外に流出する費用です。これを合法的に最適化（節税）することで、当期純利益を手元に残すことができます。

直接税金を減らすのではなく、支払う時期を未来に繰り延べることで、手元資金を増やし、当期純利益を改善する効果があります。

• 固定資産の購入 投資減税制度の活用：国の政策に基づく特別償却や税額控除制度を活用し、設備投資をすることで、当期の法人税を減らす。
• 引当金の活用 貸倒引当金の計上：売掛金などの債権が回収不能になるリスクに備えて費用（貸倒引当金繰入額）を計上することで、課税所得を減らす。
• 退職金制度の活用 生命保険料や退職金共済への加入費用を適切に経費計上することで、課税所得を圧縮する。

当期純利益を計算する際の分母となる「課税所得」を下げるため、有効な費用を計上します。

• 積極的な修繕・保守費用: 利益が出た年度に、次年度以降に必要となる設備や建物の修繕・メンテナンスを前倒しで実施し、費用として計上する。
• 不良在庫の処分: 陳腐化した在庫を洗い出し、評価損を計上することで、課税所得を減らす。

注意点: 節税対策の多くは、税金を支払う時期を遅らせる（繰り延べ）だけであり、将来的に税金を払う必要は残ります。あくまで合法的に税制優遇を活用し、キャッシュフローと当期利益を最適化することが目的です。

3. まとめ　管理職の最重要ミッション：営業利益の最大化

この記事で、「利益」が会社の競争力から最終的な成果までを示す多面的な数字であり、「損益」がその全体の結果を指す言葉であることを理解していただけたはずです。

• 利益の5種類を知れば、会社の健康状態（競争力、実力、財務体質）がわかる
• 営業利益こそ、管理職が直接責任を負うべき指標
• 損益の全体像を掴むことで、自信を持って経営判断に参加できる

この知識を武器に、数字に強いリーダーとして活躍してください。

次の一歩： 次回は、これらの利益を使って行う「収益性分析」について、さらに深く掘り下げていきましょう。